縄文海進と気候変動

文/浜山典之

 二酸化炭素やメタンガスのような温室効果ガスの排出量が増えることによって地球温暖化が進むことは、現在では常識になっています。しかし、人為的に大量の温室効果ガスを排出することがなかった縄文時代にも、地球温暖化が進行した時期がありました。

 たとえば、『山川 詳説日本史図録(第2版)』(詳説日本史図録編集委員会、山川出版社、2008年)に記載されている縄文時代の三内丸山遺跡についての解説を見てみると、「当時の海面は今より5mも高かったことから、海がすぐ近くまできていた」と書かれています。青森県の八甲田山の裾野にある三内丸山遺跡に縄文人たちが住んでいたのは、同書の記述によれば、紀元前3500年(縄文前期)から紀元前2000年(縄文中期)の間とされています。

 この時期に海面が高かった原因として考えられているのが、地球の気温の上昇であり、それによって海水面が上昇して海水が陸地の奥深くまで進入したと推測されています。これが「縄文海進(じょうもんかいしん)」と呼ばれる現象で、そのピークは今からおよそ7000年前だといいます。そうだとすると、上記の三内丸山遺跡の縄文人たちは、そのピークを少し過ぎた時期に暮らしていたということになるでしょう。

 ともあれ、縄文海進によって日本列島の従来の沿岸部は海水に浸かって住めなくなったので、そこにいた縄文人たちは内陸部に移動しました。NHK総合テレビで放映された「ブラタモリ」という番組によれば、そうした縄文人たちが現在の長野県の諏訪地方(日本一の黒曜石の産地)にも大勢集まってきていたようです。

 ところが、縄文時代の終わりごろになると日本列島では寒冷化が進み、人口が急激に減少した──という説があります。もしそれが事実だとするならば、およそ15,000年前から2,400年前ぐらいまで続いたとされる縄文時代には、かなり大きな気候変動があったことになります。
(2021/10/4)  



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