ことばの手かご
浜山典之
 

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「天佑」の不思議
   2025/9/5 (金) 18:12 by 浜山典之 No.20250905181249

 近頃ではあまり見たり聞いたりすることがない「天佑(てんゆう)」という言葉ですが、「天祐」とも漢字表記され、夏目漱石の小説『吾輩は猫である』にも使われています。その意味は「天のたすけ」です。
 しかし考えてみれば、「天のたすけ」とは言っても、それは目には見えず、音にも聞こえず、さらには科学的に実証する手段もないものです。それにもかかわらず、人は昔から「天のたすけ」というものを感じ取って、何らかの感謝の気持ちを抱いてきたのではないでしょうか。不思議といえば不思議なことですが、どうも人間の脳にはそういう感受能力が本来備わっているように見受けられます。
 何かがうまくいって幸運を感じたとき、自分の努力や他人の力添えだけでなく、それを超越した大きな力が働いて事が成就したのだと、なぜ人は直感できるのか。これはおもしろい現象です。
 よほどの自信家で、挫折した経験のないような人ならばともかく、多くの人は恵まれた事柄に対して大きな喜びを感じたときに「天のたすけ」のありがたさに思いを致すのだろうと考えられます。これは太古の昔からの人の心の在り方なのかもしれません。


「インドラの網」の世界観
   2024/11/21 (木) 18:46 by 浜山典之 No.20241121184604

 一般的には「インドラの網(あみ)」といっても、あまりなじみのない言葉でしょう。そもそも「インドラ」というのは、インドのヴェーダ神話に登場する最高神です。『岩波仏教辞典』によれば、「この神に対する信仰が仏教に取り入れられ、仏法を守護する神と考えられた」と書かれています。その仏法を守護する神が「帝釈天」(たいしゃくてん)です。したがって、「インドラの網」は「帝釈天の網」とも呼ばれます。
 余談ながら、「帝釈天」と聞いて思い出すのは、山田洋次監督の映画『男はつらいよ』シリーズで主演の渥美清が映画の冒頭の口上で「私(わたくし)、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します」と語っていた心地よい名調子です。
 さて、話を本題に戻します。大乗経典『華厳経』で説かれているところによれば、天空の宮殿にかかるインドラの網(あみ)は世界全体を覆い、網の結び目の一つひとつには、光り輝く宝珠があります。そして、その宝珠の一つひとつが宇宙のすべてを映し出しています。その宝珠がわずかでも向きを変えると、すべての宝珠の輝きに変化が現れます。ですから、網と宝珠は全体と個の繋がりを示し、また宝珠一つひとつの存在が全体に影響を与えています。
 この「インドラの網」という比喩が表しているものは、この世におけるすべてものは互いに繋がり合い、影響し合っているということでしょう。これはそのまま生態系における無数の生物の連鎖と共生という実相を表していると思います。


「時間厳守」の今昔
   2024/11/7 (木) 17:55 by 浜山典之 No.20241107175536

 1970年代に発行されたドイツ語の初級学習者向けの読本の中に、次のような言葉がありました。

  Pünktlichkeit ist alles.(時間厳守がすべてである)

 時間に厳格であることは、当時の日本でもドイツの場合と同様に強く求められていたことでした。ただ、ここまで言い切ってしまうところに、ドイツの国民性の一端がうかがえるのではないでしょうか。
 ところが、それからおよそ半世紀が過ぎて、たとえば日本の鉄道では事故や故障がない限り基本的に時刻表どおりに列車が運行されているのに対して、今のドイツでは時刻表よりも10分程度遅れて列車が駅に到着するのは珍しいことではなくなっていると聞きます。この点に限って言えば、歳月とともにだいぶ変化があるようです。


「花祭り」の由来
   2021/4/8 (木) 10:05 by 浜山典之 No.20210408100536

 4月8日はお釈迦さまの誕生日を祝う「花祭り」が催される日です。この日、日本各地のお寺では花で飾った花御堂(はなみどう)を作り、その中でお釈迦さまの像(誕生仏)を水盤に安置し、参詣者がその像の頭に小さな柄杓(ひしゃく)で甘茶をかけて礼拝するのが習わしになっています。この仏事は正式には「灌仏会(かんぶつえ)」と呼ばれます。誕生仏に甘茶をかけるのは、お釈迦さまが生まれたときに9頭の竜がやってきて甘露を降り注いだという伝説にちなむものと言われています。


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浜山典之 『ことばの手かご』 (げんとも文芸館)
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