ことばの手かご
浜山典之
 

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「インドラの網」が表す世界
   2024/11/21 (木) 18:46 by 浜山典之 No.20241121184604

 一般的には「インドラの網(あみ)」といっても、あまりなじみのない言葉でしょう。そもそも「インドラ」というのは、インドのヴェーダ神話に登場する最高神です。『岩波仏教辞典』によれば、「この神に対する信仰が仏教に取り入れられ、仏法を守護する神と考えられた」と書かれています。その仏法を守護する神が「帝釈天」(たいしゃくてん)です。したがって、「インドラの網」は「帝釈天の網」とも呼ばれます。

 余談ながら、「帝釈天」と聞いて思い出すのは、山田洋次監督の映画『男はつらいよ』シリーズで主演の渥美清が映画の冒頭の口上で「私(わたくし)、生まれも育ちも葛飾柴又です。帝釈天で産湯をつかい、姓は車、名は寅次郎、人呼んでフーテンの寅と発します」と語っていた心地よい名調子です。

 さて、話を本題に戻します。大乗経典『華厳経』で説かれているところによれば、天空の宮殿にかかるインドラの網(あみ)は世界全体を覆い、網の結び目の一つひとつには、光り輝く宝珠があります。そして、その宝珠の一つひとつが宇宙のすべてを映し出しています。その宝珠がわずかでも向きを変えると、すべての宝珠の輝きに変化が現れます。ですから、網と宝珠は全体と個の繋がりを示し、また宝珠一つひとつの存在が全体に影響を与えています。

 このような話は、一見すると何だかファンタジーのように感じられるかもしれませんが、実のところ現代科学でいう「生態系」の考え方がこの「インドラの網」の世界観に合致していることが分かります。この世には何一つ孤立して存在するものはなく、すべてものはお互いに繋がり合い、影響し合っているという「インドラの網」の比喩による教えは、そのまま「生態系」における無数の生物の連鎖と共生という実相を表していると思います。言うまでもなく、生態系においては一つの種(しゅ)が絶滅したり個体数が激減したりすれば、その影響は生態系全体に及びます。


「時間厳守」の今昔
   2024/11/7 (木) 17:55 by 浜山典之 No.20241107175536

 1970年代に発行されたドイツ語の初級学習者向けの読本の中に、次のような言葉がありました。

  Pünktlichkeit ist alles.(時間厳守がすべてである)

 時間に厳格であることは、当時の日本でもドイツの場合と同様に強く求められていたことでした。ただ、ここまで言い切ってしまうところに、ドイツの国民性の一端がうかがえるのではないでしょうか。

 ところが、それからおよそ半世紀が過ぎて、たとえば日本の鉄道では事故や故障がない限り基本的に時刻表どおりに列車が運行されているのに対して、今のドイツでは時刻表よりも10分程度遅れて列車が駅に到着するのは珍しいことではなくなっていると聞きます。この点に限って言えば、歳月とともにだいぶ変化があるようです。


「花祭り」の由来
   2021/4/8 (木) 10:05 by 浜山典之 No.20210408100536

 4月8日はお釈迦さまの誕生日を祝う「花祭り」が催される日です。この日、日本各地のお寺では花で飾った花御堂(はなみどう)を作り、その中でお釈迦さまの像(誕生仏)を水盤に安置し、参詣者がその像の頭に小さな柄杓(ひしゃく)で甘茶をかけて礼拝するのが習わしになっています。この仏事は正式には「灌仏会(かんぶつえ)」と呼ばれます。誕生仏に甘茶をかけるのは、お釈迦さまが生まれたときに9頭の竜がやってきて甘露を降り注いだという伝説にちなむものと言われています。


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浜山典之(はまやま・のりゆき)『ことばの手かご』
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